気ままに釣りエッセイ             徒然なるままに気が向いた時にのみ更新されるサイト
     

毎年GWが過ぎると行き始める釣りのひとつに、波戸からのバリ釣りがある。磯釣りの外道として名を成しているバリではあるが、団子餌で波戸から本命として狙うバリ釣りは、昔から夏の釣りのジャンルとして定着しており、それなりの趣と奥深さがある。フィールドを海に置きかえてのヘラ釣りの感覚とも言える釣りである。 今年も梅雨が明けた7月に福岡市糸島半島の西ノ浦を目指して、昼前に家を出た。西ノ浦に着いてみると旧波戸には一人の釣り人も見えない。天気は快晴で無風ベタ凪、この条件では例年なら多くのバリ釣りファンが竿を並べているのが普通である。ひょっとして今年は釣れていないのかも?との不安をいだきながらも、一方では今日は皆そこそこ釣れたので、暑さにめげて早々に引き上げた、と都合のいい方に解釈してとりあえず仕掛けをセットする。
 
竿は1号の4.5m、道糸3号を巻いたリールをセットする。唐辛子タイプの0.5号の固定ウキに、大々一個をサルカンの上に打ち、ハリス2号を15cm10cm長さにしてグレ針の72本針とし、それぞれのチモトにG2のガン玉を打つ。タナは先ず1ヒロ半からスタートする。竿を4.5mとしたのは、テトラでのバリの引きを、よりスリリングに楽しむためである。
竿の準備も終わり撒き餌を開始する。撒き餌は海水に浸した麦のみである。誰もいないのでバリはいないのかと心配したが、すぐに撒き餌に誘われて姿を現した。そのときに信じられない光景が目に飛び込んできた。足元のテトラの際に、なんと40cmオーバーのクロがうろうろしているのである。実はこの情報は、途中で餌を購入するために立ち寄った釣具店の店長から聞いていたのだが、この目で確認するまでは信じていなかった。その話とはこうである。

夏の波止釣りの主役:バリ(アイゴ) 
 
休日の午後なのに誰もいない西ノ浦の旧波止 

「西ノ浦の波戸で40cmクラスのクロが釣れている。でもオキアミでは釣れず、餌は耳が混ざっていない純粋のパン粉のみを使ったパン粉団子にしか反応しない。」長年ここに通ってきたなかで、最大でも足の裏サイズのクロ(メジナ)しか見たことはなかったが、確かそれはいたのである。今日のつけ餌はバリ団子ではなく、店長の勧めで購入した「なんでも釣れる」と書いてある万能団子なので、すけべ心でそっとクロの前へ落としてみる。しかし見向きもせず、逆に見えなくなってしまった。やはり見えている魚は釣れない、との格言通りである。そこでスパッとバリ釣りに気持ちを切り替える。
 旧波戸の「への字」から正面に向かって仕掛けを投入してみる。するとウキは手前に押し戻されてくる。潮は右斜め前から手前に突っかけてきて、左へ流れているようである。そこで左前方のやや沖目に投入して撒き餌をかぶせてみる。潮流は早すぎず、また遅すぎずバリ釣りには最適な速度で左に動いている。しかしウキに反応はない。回収して餌を確認してみてもかじられた跡すらない。そこであと半ヒロタナを深くして2ヒロで同じところに投入する。今度は反応があった。しかし、前アタリのみで食い込むまでには至らず、餌を確認すると下の方の半分だけがかじられていた。これを見て間違いなくバリはいると確信する。
 今日はまったくのべた凪で水面は鏡のように穏やかだ。海なのに無風の湖面を見ているような錯覚に陥るほどの状況である。バリ釣りには最高のコンディションである。これなら、バリの微妙な前アタリもしっかり見て取れる。
 ウキの調整は前アタリの場合、ウキの頭が「チョン」という感じで一瞬だけ水面下になりすぐ戻るくらいに、そして「ズーン」という重々しく沈む本アタリでは、ウキの頭が水面下にとどまるように調節している。それは時間にして2秒程であり、そこで合わせきれないと餌だけ取られることになる。この釣りに慣れないうちは、空合わせの連続である。さらに波にもまれると当たりが判りづらく、餌がなくなっても気づかないこともある、しかし今日の天候ではそんな心配は無用である。
団子の餌で釣るバリは、まずウキを消し込むことはない。トップに目盛りのあるヘラウキタイプの場合でも、本アタリで最大2~3目盛りが入る程度である。思うにバリは居食いをしていると考えられ、それでアタリが小さくしか出ないのだろうと思っている。しかしその小さな当たりを捉えて確信をもって合わせを入れる難しさと、その確信で合わせが決まった時に感じる満足感、それがこの釣りの魅力のひとつになっている理由でもある。
 何度かの投入後、撒き餌をかぶせるとすぐに「ズーン」と重々しくウキが入った。すかさず合わせると、バリ特有の竿を叩く引きが伝わってきた。しかしあまり大きくはない。なんなく寄せてタモで掬う。バリは背びれや腹びれに毒を持っているので、小さくてもぶり上げは禁物である。早速スカリに活かし、次を狙う。それから4投目のアタリで合わせると、今度はそこそこの型のようである。テトラに潜り込もうと身体を真横にして手前に突っ込んでくる。そこでテトラの先端に出て腕をめ一杯伸ばして対処する。十分引きも楽しめたので浮かせてタモをいれる。近場の波戸で手軽に費用もかけずに味わえる魚の引きとしては、余りある価値観を感じられる釣りである。
 しかし今日は暑い。無風でアタリはハッキリ判るものの、汗がにじみ出て身体は悲鳴をあげている。やはり朝からの釣り人は皆、暑くなる前に引き上げてしまったのだ。
 釣り続けるか引き上げるか悩む中、とりあえず水分を補給して「もう一勝負」と、気合を入れなおして竿を振る。しかし潮止まりでまったく流れない。潮が早すぎても釣りにならないが、まったく動かないではお手上げである。めげそうにもなったが、もう一枚それなりの型が釣れたら納竿とすると決めて再挑戦することにした。程なくして潮が動き始めるとすぐに、期待した型が釣れたので本日は終了とした。今日は持ち帰えるつもりである。食べるには一枚あれば十分なのだが、心当たりの人に連絡をすると「ぜひ欲しい」とのことなので、大きいものを二枚もって帰ることにした。
 バリは結構癖があり嫌われる方も多い魚であるが、ぜひ試していただきたい食べ方があるので紹介をしてみたい。

バリの調理法